横浜橋の路地裏に潜む、手打ちそばの真髄「太志」
ハマの台所として活気あふれる横浜橋通商店街。威勢のいい声が飛び交うその喧騒から、一本路地をスッと入った静かな場所に、そのお店はあります。手打ちそば処「太志(ふとし)」。派手な看板はなく、凛とした和の佇まい。知らなければ思わず通り過ぎてしまいそうな隠れ家感ですが、地元のお蕎麦好きの間では「あそこは間違いない」と一目置かれる存在です。どうも、一年の締めくくりにはこだわりの蕎麦をすっ飛ばしたい30代男子、なおやんです。

普段の太志は、店内に静かにジャズが流れ、落ち着いた大人の時間が流れる穴場スポット。仕事の合間に一人で訪れ、せいろ一枚をサッと手繰るのが粋な、知る人ぞ知る名店なのですが……この日ばかりは、店の外まで張り詰めた空気が漂っていました。訪れたのは、泣いても笑っても一年最後の日、12月31日、大晦日。日本人にとって、いや僕ら昭和〜平成を駆け抜けてきた世代にとっても、一年の災厄を断ち切り、新しい年を迎えるための「年越しそば」は、絶対に外せない一大儀式ですからね。
戦場と化した「大晦日の蕎麦屋」!行列の先に待つ究極の多幸感
我が家では例年、スーパーの特設コーナーで買ってきた蕎麦を適当に茹で、紅白歌合戦の音声をBGMに慌ただしく食べるのが恒例の風景でした。でも今年は、ふと思ったんです。「たまには、プロが魂を込めて打った本当に美味しいお蕎麦で、心静かに一年を締めくくりたい」と。そんな一念発起で、ランチタイムのピークを狙って太志へと突撃しました。
到着して目に飛び込んできたのは、予想を遥かに超える、まさに「戦場」のような光景。普段の和やかな静寂はどこへやら、厨房からは猛烈な湯気が間断なく立ち上り、店員さんは小走りで店内を駆け回り、注文の電話は鳴り止まない……。まさに怒涛の忙しさです。店頭には持ち帰り蕎麦を待つ人々、そして店内への案内を待つ僕のような蕎麦ファンが溢れ返っていました。「これは、来るタイミングを間違えたか?」と一瞬怯みましたが、運良く入れ替わりのタイミングで滑り込みセーフ!
席に着けただけでも、来年の運を全て使い果たした気分っす(笑)。
【実食】十割の誇り、天せいろが届ける「一年のご褒美」
大晦日の特別編成メニューになってはいましたが、僕のお目当てだった不動のエース「天せいろ」は健在。迷わずオーダーを入れます。

しばらくして運ばれてきたお蕎麦、その艶やかな輝きに思わず目を奪われます。太志といえば、つなぎを一切使わない「十割そば」も自慢ですが、この日のせいろも、しっかりとエッジが立った見事な仕上がり。まずはつゆを付けずに、蕎麦だけで数本。……噛み締めた瞬間、野生味あふれる力強い蕎麦の香りが、一気に鼻腔を突き抜けていきます。冷水でキリッと締められたその歯ごたえと喉越しは、大晦日の慌ただしさを一瞬で忘れさせてくれるような、真っ直ぐで誠実な味わい。「あぁ、これだよこれ、これを求めていたんだ」と、心の中で特大のガッツポーズが飛び出しました。
主役級の脇役!?サクサクを極めた天ぷらの競演に酔いしれる
そして、もう一つの主役とも言える天ぷらの盛り合わせ。車海老、厚切りのナス、シシトウ、カボチャ……彩り豊かに、立体的に盛り付けられたその姿は、まるで一年の締めくくりを祝う豪華な花束のよう。驚くべきはその衣の「軽さ」です。熟練の職人技による薄く、サクサクとした繊細な食感で、油の重たさを微塵も感じさせません。特に主役の海老はプリッとした力強い弾力があり、噛むほどに海の甘みが溢れ出してくる。蕎麦つゆに少しだけ浸すと、天ぷらの香ばしい油のコクがつゆに溶け出し、蕎麦の味わいをさらに一段、華やかで立体的なものへと引き上げてくれるんですよね。この精密なハーモニーこそが、江戸前天せいろの醍醐味っすな。
まとめ:修羅場の先にある、最高の一口と静寂
多忙を極める厨房の様子を横目で見ながら、「こんなに修羅場なのに、クオリティを一切落とさず維持するのは並大抵のことじゃないだろうなぁ」と勝手に同情してしまいましたが、提供された一杯には、老舗のプライドと一切の妥協がありませんでした。最後は、白濁してとろりと濃厚な「蕎麦湯」で、鰹節の香るつゆを割り、最後の一滴までじっくりと飲み干して、完食。身体の芯からじんわりと温まり、「あぁ、今年も泥臭く頑張ったけど、最後にこんなに美味しい蕎麦を味わえたなら、すべて万事OKかな」という満足感が、胸の奥から静かに湧き上がってきました。
普段使いのちょっとした贅沢にも、そして今回のような特別なハレの日にも、自信を持っておすすめできる、阪東橋の至宝「太志」。皆さんも、魂を揺さぶるような、本物の「蕎麦の力」が食べたくなったら、ぜひこの横浜橋の路地裏を探してみてください。ただ、もし大晦日に挑戦されるなら、相当な「待つ覚悟」と、何があっても動じない「大人の余裕」を持って行くことを強くおすすめします(笑)。でも、その待機時間の苦労を補って余りある、最高の一年の締めくくりがそこには待っていますよ!
それじゃ、また新年、新しい美味いものとの出会いでお会いしましょう! 皆さん、良いお年を!


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